中谷宇吉郎随筆集』(樋口敬二編、岩波文庫ISBN:4003112415bk1
著者の本では、以前に『科学の方法』(ISBN:4004160502)、『』( ISBN:4003112423)を読んでいる。本書は3冊目かな。
読み終えたのは、こちらに来てすぐだった。が、入手したのは、何年前だったか…。何度か、読みかけてはそのままになっていた。長かったねぇ。
こう書くと、まるで面白くないようだけど、とんでもない。素晴らしい作品の数々。こちらに来てから、中谷宇吉郎寺田寅彦朝永振一郎らの随筆を好んで読んでいるが、なかでも最も好きなのが中谷宇吉郎の随筆だ。暖かく、柔らかく、そして鋭い。すばらしい。本書は私の宝物。
内容は、I)雪の研究に関して、II)日々の生活に感じたこと(子供の頃・日本と西洋の文化について・戦中の事などなど)、III)師、寺田寅彦の思い出、IV)一般への科学の啓蒙、と大きく分かれており、それぞれに数編の作品がある。
これらの作品を通し、著者の科学者としての視点・姿勢や、戦中・戦後の人の心、当時の日本・世界の科学の状況などに触れる事が出来る。
特に好きな作品を挙げると、雪の研究に関する苦労やおもしろさが書かれた『雪雑記』、「素人の女学生」のグループによる素晴らしい研究を紹介・解説する『「霜柱の研究」について』、墨絵を書き始め、それにすっかりのめり込む様を書いた『南画を描く話』、戦中に著者も所属していた理研で行われた原子爆弾の開発、その米国、ヨーロッパとの比較、そして科学と人類の幸福を述べる原子爆弾雑話』、子供達にSFを読んで聞かせる『イグアノドンの唄』、師、寺田寅彦の指導者としての温かみ、日本人としてその独自の科学を追究する眼・姿勢、その先見の明、理研での実験の日々を語る『指導者としての寺田先生』(「ねえ君、不思議だと思いませんか」には目頭が熱くなる)『寺田先生の追憶』、研究を、一つの方向に沿って追求する型と、自由に探索を行うタイプに分け、これらの融合が重要であることを実例から解説する『比較科学論』、などなど。
そうそう、驚いたのは、エセ科学への批判が述べられていることだった。そうか、むかしっから、要の東西を問わず問題だったのだなと、そして時代の優れた書き手が批判している(例えばドーキンスによる『虹の解体』(ISBN:4152083417bk1)、カールセーガンによる『人はなぜエセ科学に騙されるのか』(ISBN:4102294031bk1)など)のだな、とつくづく思った。
残念なのは、『球皮事件』について。本書では簡単な紹介だけでが同作品がおさめられていないことだった。どこかで読んだようなきもするのだが…。たぶん、気のせいだろうなぁ。探すと、岩波ジュニアの『雪は天からの手紙』(ISBN:4001145553bk1)に収録されているようだが、そのほかはほとんど読んでいるし。近い内に、文庫でない随筆集を購入しよう。