『科学者の自由な楽園』(朝永振一郎著、江沢洋編、ISBN:4003115228bk1
これを読んだのも、そうとう前だが。
本書は、繰り込み理論によりノーベル物理学賞を受賞した朝永振一郎による随筆や講演の記録を収録している(講演の記録の方が多い)。その内容は、身の回りのことや子供の頃のこと、科学・物理全般について、そしてタイトルにある「科学者の自由な楽園」たる理化学研究所における研究、師・仲間との日々について、そして各国を訪れた紀行文(ノーベル賞受賞によるスウェーデン行も含む)、となっている。
で、これまで持っていた「朝永振一郎のイメージ」が大きく変わった。いままで(特に情報を持っていたわけではないのだけど)、かってにこう…「理論系の天才だけあって、若い頃から光り輝く人生で、自信とプライドの固まりで…」というのを想像していたのだけど、若い頃は、いろいろつまずき・苦労があったことが書かれている。仁科芳雄に誘われて、理研に移ってから花咲いた、という所なのだろうか(それでも、その後も、『量子力学と私』に収録された「滞独日記」を読むに、自分の能力への不信、自信の喪失がたびたび述べられているし)。もっと、近寄りがたい人なのかと思っていたよ。
そして、なんといっても(私にとって)面白かったのは、理研での研究の日々について。ちょうど新しく生まれた学問分野である量子力学に、自由な雰囲気を持つ理研で、師・同僚と共に激しく邁進する。そして、その苦労。
まったく、かつての理研、恐るべし。これを読むまで、かつての理研独特の自由な雰囲気や、日本の大学を支える人材プールであったことを知らなかった。
前に感想を書いた『科学者の楽園をつくった男』を読んだのは、これを読んだ後。積読になっていたのを、本書を読んだ後にぜひ読みたくなり、送ってもらったのであった。